- 両国KFC(国際ファッションセンター)ビル
2階 ホール セコンド - 〒130-0015
- 東京都墨田区
横網一丁目6番1号
日本血管病理研究会の会員の諸先生方、会員ではない諸先生方もますますご健勝のことお慶び申し上げます。
本研究会の名称は、今年度よりあたまに「日本」を冠して、「日本血管病理研究会」に発展し、第19回日本血管病理研究会を、平成26年10月4日(土曜日)に、両国のKFC(国際ファッションセンター)ビル(2F ホール セカンド)にて開催する運びになりました。
血管障害にかかわる疾患は、多くの病因から起こり、動脈硬化、血管腫瘍、バージャー病、高安動脈炎などさまざまな疾患が存在します。このなかで「血管炎」とは、病理学的に「血管壁の壊死と炎症細胞の浸潤」と定義されます。肉眼視できる血管は網膜と皮膚で、腎や肺などは生検ができますが、大動脈を生検はできません。このため生検の他には、臨床・画像・血液尿所見など診断のための根拠を確かなものに進めていく作業が必要です。このために、平成12年頃より大阪大学の野島 博教授と診断のための遺伝子マーカー検索を目的とした共同研究をさせて頂いております。臨床の現場では血管炎の診断と治療は難しいことが多々あり、知識と経験が必要になります。このため、血管炎は古今東西の難しい学問・臨床分野のなかの一つであるように考えられます。年月を経ても解らない疑問が多くあります。この難しさが、私どもを魅了し続ける理由のようにも思われます。
William Osler卿(1849-1919)の名言、”Medicine is a science of uncertainty and art of probability” (1950)、“One of the chief reasons for this uncertainty is the increasing variability in the manifestations of any one disease”(1930) は、他の膠原病疾患ではなく、まさしく血管炎の診断や治療に悩まされる私どもの臨床現場にほかならないように思われます。
血管炎の分類方法はさまざまに変遷してまいりました。1952年のZeekの壊死性血管炎の分類には、結節性多発動脈炎(PAN)、過敏症性血管炎、リウマチ性血管炎(RV)、アレルギー性肉芽腫性血管炎、側頭動脈炎の5疾患しかありませんでした。抗好中球細胞質抗体(ANCA)の発見などに伴い、Chapel Hill Consensus Conference (CHCC)1994年分類と最近CHCC2012年分類が発表されました。ANCAの発見に伴いほとんどのPANが顕微鏡的多発血管炎(MPA)に変ってしまいました。また、喫煙率の低下やMTX治療の出現によってRVの頻度が少なくなりました。このように血管炎の頻度や病態、ひいては疾患名までも時代によって変化していることが興味深く理解できるかと思います。現在、アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会によって、血管炎の新しい分類基準・診断基準の作成のため、DCVAS(Develop classification and diagnostic criteria for primary systemic vasculitis)との国際共同研究を行っています(日本も参加しています)。この研究が血管炎の概念や学問の発展と、臨床の現場にて早期発見・診断・治療につながることが期待されます。
血管炎の興味あることは、民族や国・地域によって、疾患の頻度やその臨床症状が異なることにもあります。日本と英国間にANCA関連血管炎の頻度や臨床症状の差異があることが明らかになりました(藤元昭一、小林茂人、鈴木和男、猪原登志子、R Watts、D Scott、D Jayne、橋本博史、他。H16-18年ヒューマンサイエンス財団 総合研究報告書)。この違いは何に起因するのか? 1)Case recognition (疾患の理解と発見)、2)ANCA測定法の差異が、英国研究者からの指摘でした。後者は猪原先生の論文で否定されました。前者はここ10年以上の血管炎の理解の普及の結果に裏付けられると考えます。この他に3)遺伝学的な背景の違いが示唆されます。これはリウマチ性疾患である強直性脊椎炎(AS)の病因遺伝子のHLA-B27は、北欧では一般人口の14%、ドイツで7%に検出されますが、日本では0.4%以下であり、ASの頻度は日本では少ない事実に裏付けられます。ANCA関連血管炎の遺伝学的研究は、上述の研究と同様に、旧厚生省特定疾患 難治性血管炎研究班 橋本博史班長が平成11年頃より現筑波大学の土屋尚之教授とともに共同研究を始められました。
ANCA関連血管炎では「難治性血管炎」と言われるように、臨床の側面からは、1)治療しなければ死に至る、2)生命の維持はできても臓器不全など重篤な後遺症(透析、酸素吸入治療、失明、聴覚障害、車いす使用など)を残す、3)再発を繰り返す、このため維持療法が必要である、4)治療のために使用する薬剤(ステロイド、サイクロフォスファミドなど)によって重篤な合併症・有害事象(椎体の圧迫骨折、糖尿病、高血圧、膀胱癌、感染症、精神疾患など)が起こるなど、極めて多彩で悲惨な疾患です。このような重要なUnmet needsが数多く存在致します。このなかの問題に対して、リツキシマブ、大量ガンマグロブリン製剤など新しい薬剤が、血管炎治療のパラダイム・シフトになる可能性が強く示唆されます。今後も新しい薬剤・治療法が開発・承認され、使用されることが切に期待されます。
血管炎の歴史は、病理医と臨床医の共同作業で新しい発見が繰り返されてきました。血管炎は比較的MINORな分野ですが、全身におよぶ疾患なので、全身を診なければなりません。このため、病理学、免疫学、皮膚科、内科、腎臓、リウマチ・膠原病内科、呼吸器内科・外科、循環器内科・外科、小児科、耳鼻科、眼科、脳神経内科・外科、放射線科、衛生学、精神科、血管外科、整形外科、総合診療科など広い範囲の分野の医師が診療に携わっています。最近、病理医の減少を耳に致しました。また、血管炎を専門にする病理の先生が少なくなることも危惧されます。上述のさまざまな診療分野の医師に血管炎を広く・深く理解して頂き、患者さんのために密な医療連携が出来れば良いことと考えます。
長くなりまして申し訳ございません。ご専門の諸先生方には、釈迦に説法で、大変恐縮でございますが、ここでは、ご専門でない方々に少しでもご興味をもって頂きたいことを考えて、あえて細かに記載させて頂きました。血管炎を多くの方に知ってもらうこと、「血管炎・血管疾患の学問を広めよ!」が、今回のテーマかとも考えられます。このため、ご教室の若い先生方や学生さんなどには、どうぞ、必ず・強く・しつこく、ご参加を働きかけて下さい。看護師さんや製薬会社の方のご参加も歓迎致します。皆様方のご参加をこころからお待ち申し上げます。
平成26年4月吉日